column お役立ちコラム
これからの自治体防災は「お湯を備える」時代へ|太陽熱給湯システムという選択
「お湯はインフラである」「災害関連死を防ぐためにお湯が果たす役割」——この連載を通じて、自治体・公共施設担当者の皆様に伝えてきたことの集大成として、最終回では「これからの自治体防災のあり方」を考えます。発電機を備えるだけでは、もう十分ではありません。お湯を備えること——それが次世代の防災計画の核心になります。
防災は新しい時代へ
近年の災害は「長期化」している
日本の災害は、年々その規模と長期化の傾向を強めています。阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、そして能登半島地震——大規模災害が発生するたびに、被災地の復旧・復興には数か月から数年の時間がかかることが明らかになっています。
これは避難生活の長期化を意味します。発災直後の数日間をしのぐことを前提にした防災計画では、もはや対応しきれない時代になっています。「数週間・数か月にわたって、被災者が人間らしい生活を維持できるか」——これが、これからの防災計画に問われる本質的な問いです。
避難所環境の改善が求められている
国レベルでも、避難所の環境改善や災害関連死対策の重要性が認識されるようになっています。過去の大規模災害で繰り返された災害関連死の教訓を受け、避難所での生活環境の質を高める取り組みが、自治体に求められるようになってきています。
その文脈で改めて注目されているのが、「避難所でお湯が使えること」という、これまで見落とされがちだった条件です。衛生環境の維持、温かい食事の提供、清拭による感染症予防——これらすべてが、お湯の有無によって大きく左右されます。
発災後72時間をしのぐ「緊急対応」から、数週間・数か月を支える「長期避難対応」へ
「生き延びる」ことから「人間らしく生活できる」ことへの転換
避難所環境の改善が自治体に求められる時代
エネルギーだけでは足りない
発電機・蓄電池は「電気」を届けるが「お湯」は届けない
多くの自治体の防災設備整備では、「非常用発電機の設置」や「蓄電池の導入」が優先されてきました。停電時でも照明や情報機器を動かし続けることができる——これは確かに重要な備えです。
しかし、発電機が動いていても、お湯は自動的には生まれません。電気でお湯を沸かすには、電気ケトルや電気給湯器が必要ですが、大量の電力を消費します。非常用発電機の電力を照明・通信・医療機器と取り合う中で、大量の電力を給湯に回す余裕はないことが多い。
つまり「電気は確保できたが、お湯は使えなかった」という状況が、大規模災害の避難所では繰り返されてきたのです。エネルギーとお湯は、別々に考えなければならない——これが能登半島地震をはじめとする近年の大規模災害が示した教訓のひとつです。
「お湯を備える」という新しい防災の発想
ここで提案したいのが「お湯を備える」という防災の発想です。
太陽熱給湯システムは、太陽の熱エネルギーを直接お湯に変換します。電気・ガスというエネルギーインフラに依存せず、太陽という自然エネルギーから給湯機能を維持できます。消費電力は約70W——ポータブル電源があればポンプを動かし続けることができ、停電・断ガスが同時に発生した状況でも、晴れていればお湯を作り続けられる可能性があります。
これは「エネルギーの備え」とは別次元の「お湯の備え」です。発電機が照明と情報機器を支える間、太陽熱給湯システムが衛生・食事・清拭のためのお湯を支える——この役割分担こそが、これからの公共施設防災設備のあるべき姿ではないでしょうか。
自治体が備えるべきもの
BCPとレジリエンスの観点から
BCP(事業継続計画)という概念は、企業だけでなく自治体・公共施設にも求められるようになっています。「大規模災害が発生しても、最低限の行政機能と住民サービスを維持し続けること」——これがBCPの本質であり、公共施設においては「避難拠点としての機能を維持すること」がその中核になります。
その観点から、避難拠点となるコミュニティセンターや公民館の防災設備を評価するとき、「お湯が使えるか」は重要な評価軸のひとつになります。電気・ガス・水道という三つのライフラインがすべて止まった最悪の状況でも、避難者にお湯を提供できるか——これが、真のレジリエンス(回復力・強靭性)の証明です。
脱炭素と防災を同時に実現する選択
自治体が直面する課題は防災だけではありません。2050年カーボンニュートラルに向けた公共施設の脱炭素化も、自治体にとって重要な政策課題です。多くの自治体が再生可能エネルギーの活用や、公共施設の省エネ改修を推進しています。
太陽熱給湯システムは、この脱炭素と防災という二つの課題を、一つの設備で同時に解決できます。太陽という再生可能エネルギーを活用してCO₂排出量を削減しながら、災害時の給湯・生活用水確保というレジリエンス機能も同時に備える——自治体にとって、これほど合理的な設備投資は多くありません。
さらに、平常時の光熱費削減効果は、施設の維持管理コストを長期的に抑えることにもつながります。初期投資に対するランニングコストの削減効果と、防災・脱炭素という政策目標への貢献を合わせて評価することで、太陽熱給湯システムの導入は公共施設の設備投資として十分に合理性を持ちます。
平常時:太陽熱で給湯エネルギーを削減。光熱費を長期的に抑制
脱炭素:再生可能エネルギー活用でCO₂削減。自治体の環境目標に貢献
防災:200Lの飲用可能な生活用水を常時確保。断水時の避難者を支援
停電対応:約70Wの低消費電力。ポータブル電源で稼働継続の可能性
BCP:電気・ガスに依存しない給湯で、ライフライン停止時も機能維持
レジリエンス:平常時から稼働するから、災害時にも確実に機能する
七尾市の取り組み:未来の自治体防災モデルの一例として
2026年7月、マルヤス工業株式会社は石川県七尾市と協議を重ね、地域の公共施設2か所への太陽熱給湯システム「ReTerra」の寄贈を発表しました。この取り組みは、能登半島地震の復興支援であるとともに、「これからの自治体防災のあり方」を実践する一例として位置づけることができます。
今回の寄贈先は、地域住民が日常的に利用するコミュニティセンターであり、いずれも防災拠点としての役割も担っています。太陽熱給湯システムを平常時から稼働させることで、施設の光熱費を削減しながら、次の災害に備える——「使いながら備える」防災の実践例です。
能登半島地震で断水の長期化を経験した地域に、「次の災害でもお湯が使える施設」を作る——この取り組みは、復興支援の枠を超えて、全国の自治体が参考にできる防災設備整備のひとつのモデルとして示されています。
まとめ:防災月間だからこそ、地域の「お湯」を考えよう
この連載を通じて、「お湯は生活インフラである」「災害関連死を防ぐためにお湯が果たす役割」「コミュニティセンターに太陽熱給湯システムを導入するメリット」をお伝えしてきました。そして最終回である今回は、「これからの自治体防災はお湯を備える時代へ」というテーマで、太陽熱給湯システムの位置づけを考えました。
近年の大規模災害が示しているのは、避難生活の長期化という現実です。その中で被災者の命と尊厳を守るために必要なのは、電気だけではありません。お湯という、平常時には当たり前のように存在していたものが、いかに大切かを、被災地は繰り返し教えてくれています。
脱炭素・BCP・レジリエンス——さまざまな文脈から、太陽熱給湯システムは自治体にとって合理的な選択肢です。しかしそれ以上に、「次の災害が来たとき、自分たちの施設でお湯が使えるか」という、シンプルかつ切実な問いに答えられる設備です。
防災月間のこの時期に、ぜひ一度考えてみてください。
あなたの地域のコミュニティセンター・公民館は、断水・停電が同時に発生したとき、避難者にお湯を提供できますか?
発電機はある。食料の備蓄もある。でも、お湯の備えはあるでしょうか。
防災月間だからこそ、自分たちの地域の「お湯」について考えてみませんか。
第1回: 「お湯は生活インフラ」——能登の断水経験から自治体が学ぶべきこと
第2回:コミュニティセンターへの太陽熱給湯導入で、防災・脱炭素・光熱費削減を同時解決
第3回:災害関連死を防ぐお湯の役割——手洗い・清拭・温かい食事が命を守る
第4回:エネルギーを備えるだけでは足りない。お湯を備える次世代防災へ
2026年 / マルヤス工業株式会社