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災害時にお湯が命を守る―避難所で本当に必要な設備
大規模災害で亡くなる方のすべてが、建物の倒壊や津波による「直接死」ではありません。避難生活の中で体調を崩し、命を落とす「災害関連死」は、阪神・淡路大震災以降の大規模災害で繰り返し報告されている深刻な問題です。そしてその多くは、適切な環境が整っていれば防げた可能性があります。今回は、「お湯」という視点から、避難生活の質と命を守ることの関係を考えます。
災害関連死とは
地震・津波で死ぬのではなく「その後の生活」で死ぬ
「災害関連死」とは、地震・津波・洪水などの直接的な被害ではなく、避難生活や医療機能の低下など、災害後の環境の悪化が引き金となって亡くなることを指します。
2016年の熊本地震では、直接死50人に対して、災害関連死は218人にのぼりました。能登半島地震でも多数の災害関連死が報告されています。つまり、建物の倒壊を生き延びた方が、その後の避難生活で命を落とすケースが、直接死を大きく上回ることがあるのです。
災害関連死の主な原因として報告されているのは、避難生活による体力・免疫力の低下、基礎疾患の悪化、低体温症、感染症、エコノミークラス症候群、そして精神的なストレスです。これらの多くは、適切な衛生環境・温熱環境・栄養状態が保たれていれば、防げた可能性があると言われています。
避難生活による体力・免疫力の低下
寒冷・低体温による体調悪化
衛生環境の悪化による感染症
長期の不衛生状態による皮膚・口腔疾患
基礎疾患(心疾患・糖尿病など)の悪化
長期の精神的ストレスによる健康被害
特に高齢者が危険にさらされる
災害関連死の犠牲者の多くは高齢者です。体温調節機能が低下した高齢者は、避難所の寒冷環境に長期間さらされると体力を急速に消耗します。また、慢性疾患を抱えていることが多く、医療機関へのアクセスが制限される避難生活では、持病の管理が難しくなります。
口から温かいものを取り入れることができるか、身体を清潔に保てるか、手洗いが適切にできるか——これらのひとつひとつが、高齢者の生命を左右する条件になり得るのです。
お湯不足が招く問題
手が洗えない——感染症リスクの急上昇
手洗いは感染症予防の基本中の基本です。しかし断水が続く避難所では、流水での手洗いが困難になります。さらに、冷たい水しか使えない状況では、手洗いの回数が減りがちになります。せっけんで手を洗うには水が必要ですが、温かい水があることで、洗浄効果が高まり、何より「手を洗おう」という行動を促せます。
避難所での集団感染(ノロウイルス・インフルエンザ・新型コロナウイルスなど)は、過去の大規模災害で繰り返し発生しています。密閉された空間で多数の人が共同生活を送る避難所は、感染症が広がりやすい環境です。温かいお湯で手洗いができることは、この感染リスクを低下させる重要な対策のひとつです。
体が拭けない——皮膚疾患と精神的ダメージ
お風呂やシャワーが使えない状況が続くと、皮膚の不衛生状態が続き、褥瘡(床ずれ)・皮膚炎・水虫などのリスクが高まります。特に寝たきりや移動が困難な高齢者・障がい者にとって、温かいお湯を使った清拭(タオルで体を拭くこと)は、皮膚トラブルを防ぐために欠かせないケアです。
また、「体を清潔に保てない」という状態が長く続くことは、被災者の精神的なダメージになります。自分の体が不潔だという感覚は、尊厳の喪失につながり、被災者の意欲や希望を少しずつ蝕みます。温かいお湯で清拭できることは、身体の清潔だけでなく、心の支えにもなるのです。
温かい食事が食べられない——低栄養と体力低下
避難所での食事は、発災直後は非常食(乾パン・缶詰など)が中心になります。こうした食事は栄養補給には役立ちますが、温かくないことが多い。冷たい食事が続くと、胃腸への負担が増え、食欲が低下し、結果として摂取カロリーが不足します。
温かいスープや温かいお茶一杯が、被災者の体と心に与える回復力は、冷たい食事には代えられません。特に高齢者は消化機能が低下しており、温かい食事を摂ることが健康維持に直結します。
「お湯があれば、カップラーメンが食べられる」——これは被災地での食支援で何度も確認されてきた事実です。お湯を沸かすことができる環境は、避難所での食の選択肢を大幅に広げ、被災者の栄養状態の改善につながります。
お湯が命を守る理由
避難生活においてお湯が果たす役割を整理すると、それが単なる「生活の快適さ」ではなく、「命を守るインフラ」であることが明確になります。
| お湯の用途 | 命・健康への効果 |
|---|---|
| 手洗い | 感染症(ノロウイルス・インフルエンザなど)の予防。洗浄効果を高め、手洗い習慣を促進する |
| 清拭 | 皮膚疾患・褥瘡の予防。身体の清潔を保ち、精神的な尊厳を守る |
| 洗い物 | 食器・調理器具の衛生管理。食中毒リスクの低減 |
| 簡易シャワー・入浴 | 全身の衛生維持。体の冷え・感染症リスクの軽減。精神的ストレスの緩和 |
| 温かい飲み物 | 体温維持・低体温症の予防。脱水予防(温かい飲み物は飲みやすい)。精神的な安定 |
| 温かいスープ・食事 | 栄養摂取の改善。消化機能への負担軽減。高齢者・乳幼児の健康維持 |
この表を見ると、「お湯があること」が、感染症予防・低体温症予防・栄養改善・衛生管理・精神的安定という、災害関連死の主な原因のほぼすべてに対応していることがわかります。お湯はひとつの設備から複数の命を守る効果を生み出す、まさにインフラです。
感染症:温かいお湯での手洗い・清拭・食器洗浄で予防
低体温症:温かい飲み物・食事・清拭で体温維持を補助
低栄養:温かい食事・スープで食欲と栄養摂取を促進
皮膚疾患:温かいお湯での清拭で皮膚トラブルを予防
精神的ダメージ:身体を清潔に保つことで尊厳と意欲を支える
ReTerraでできること
200Lのお湯——約1,000杯分の温かいスープに
ReTerraのタンクユニット(HS-200A)には、常時200リットルのお湯が蓄えられています。この200Lのお湯が避難所でどのように活用できるか、具体的なイメージで考えてみましょう。
たとえば温かいスープを1杯200mlとすると、200Lからは約1,000杯分のスープが作れる計算になります(※概算であり、実際の使用状況により異なります)。コミュニティセンターに避難した100人の方に、ひとり10杯分のスープを提供できる——それが200Lというお湯の量の持つ意味です。
もちろん、スープだけでなく、手洗い・清拭・食器洗い・温かい飲み物など、複数の用途でお湯は使われます。しかしタンクに蓄えられたお湯は、太陽が出ていれば毎日補充され続けます。「使い切ったら終わり」ではなく、継続的にお湯を供給し続けることができるのです。
停電時でも稼働できる——ポータブル電源との組み合わせ
ReTerraの集熱ポンプの消費電力は約70Wです。これは、市販のポータブル電源でも十分稼働できる水準です。
たとえば容量1kWhのポータブル電源を使用した場合、理論上は約14時間以上の連続稼働が可能です。晴れた昼間に太陽熱でお湯を温めながら、ポータブル電源でポンプを動かし続けることで、停電が続く状況でも給湯機能を維持できる可能性があります(※実際の稼働時間は気象条件・環境により異なります)。
消費電力:約70W(集熱ポンプの動作分のみ)
ポータブル電源(約1kWh)での稼働目安:約14時間以上(概算)
晴天時:太陽熱で加熱しながらポンプのみ電力使用。効率的に稼働
注意:実際の稼働時間・お湯の量は気象条件・設置環境により大きく異なります
「停電したらすべての設備が止まる」という状況を想定している避難所は多くあります。しかし約70Wという極めて低い消費電力のReTerraは、大型発電機がなくても、市販のポータブル電源と組み合わせることで稼働できる可能性があります。この特性は、大規模停電が長期化する災害時において、特に価値を持ちます。
「飲用可能な水」として活用できる安心設計
ReTerraのタンクに蓄えられた水は、飲用水として活用できる品質を保っています。集熱器内を循環するのは不凍液(プロピレングリコール水溶液)であり、タンク内の飲料水とは熱交換器を介して完全に分離されています。不凍液が直接飲料水に混入する構造ではないため、衛生面の安全性が確保されています。
断水が発生した際、タンクに蓄えられた水は飲料・調理・清拭・洗浄など多目的に活用できます。4人家族で約16日分の生活用水に相当する200Lは、コミュニティセンターに避難した方々にとって、初動期の重要な水源となり得ます。
まとめ:お湯は「命を守るインフラ」である
災害関連死は、適切な環境が整っていれば防げた可能性のある死です。その「適切な環境」の中心にあるのが、お湯という、私たちが平常時には当たり前のように使っているものです。
手洗い・清拭・洗い物・簡易シャワー・温かい飲み物・温かいスープ——お湯があることで、感染症リスクを下げ、体温を維持し、栄養状態を改善し、被災者の精神的な安定を支えることができます。これらはすべて、災害関連死を防ぐための具体的な手段です。
ReTerraは、200Lの蓄湯と約70Wという低消費電力によって、停電・断水時でも給湯機能を維持できる可能性を持つ設備です。コミュニティセンターや公共施設に設置されることで、平常時の光熱費削減と、災害時の命を守る水・お湯の確保を同時に実現します。
災害関連死の多くは、避難生活の環境悪化が引き金となる防げた死
お湯不足は感染症・低体温・低栄養・精神的ダメージをもたらし、災害関連死リスクを高める
手洗い・清拭・洗い物・温かい食事・飲み物、すべての用途でお湯は命を守る
ReTerraの200Lタンクは約1,000杯分のスープに相当(概算)
約70Wの低消費電力でポータブル電源対応。停電時でも稼働できる可能性がある
次回のコラムでは、「自治体の防災計画と太陽熱利用」をテーマに、自治体がReTerraを防災計画に組み込む際の具体的な考え方と、補助金・支援制度の活用方法についてお伝えします。
マルヤス工業株式会社は、能登半島地震の復興支援として、石川県七尾市の公共施設2か所に太陽熱給湯システム「ReTerra」を寄贈することを発表しました。
→ 詳しくはこちら:石川県七尾市へのReTerra寄贈についてのお知らせ
2026年 / マルヤス工業株式会社